IT業界に紛れ込む北朝鮮工作員の求職活動

この7月27日、高市首相は記者会見において「対外情報機能の充実、外国による不当な干渉の防止の強化などの検討を進める」とし、スパイ防止関連法案の国会提出に言及した。

昨年暮れ、北朝鮮工作員の対外活動に関して注意を喚起するよう英BBCが報道した。日本では過去に拉致事件など忌まわしい出来事が身近で起こったことからみても、無視できない内容であった。

 

北朝鮮と韓国の間に設けられたDMZ(非武装中立地帯)南側にある民間人統制区域の有刺鉄線

写真撮影=©KazunoriShirouzu

 

BBCのオズモンド・チア記者は、「米アマゾンChief  Security Officerの Stephen Schmidt氏は、“北朝鮮工作員と疑われる1800件以上の求人応募をブロックした。企業は求人の際に不審な応募者が紛れ込んでいないか十分に注意を払うべきだ”」と報道した。

アメリカのIT業界やその周辺で広がっているリモートワークのオンライン求人に、北朝鮮工作員が盗難及び偽造の身分証明書を使って応募するケースが目立っているという。また、流出した認証情報を使って他人の休眠SNSアカウントを乗っ取り、自己の身分証明として偽装し、悪用する事例も頻発している。

とくに、乗っ取りのターゲットになるのは信用性の高いソフトウエア・エンジニアのアカウントだそうだ。

アマゾンでは人事担当者の念入りな検証とAI(人工知能)の駆使で本人確認を厳しくしているものの、昨今は“なりすまし”がより巧妙になっており、完全に不審者を除去できないという。

就業に成功すれば、工作員は収集した重要情報を北朝鮮本国に報告、仕事で得た報酬は兵器プログラム用資金として送金する。

その一方で、そうした北朝鮮工作員の就職をアシストするブローカーも世界各国に数多く存在しており、露見して摘発されたケースも多い。

当然、北朝鮮工作員の就業先として日本企業・諸団体も格好のターゲットになっている。

 

韓国・京畿道坡州<Paju>から北朝鮮入境の第一関門となる検問所

写真撮影=©KazunoriShirouzu

 

日本にはまだスパイ防止法なるものがない。1985年中曽根内閣時代に「スパイ防止法案(国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案)」が提出されたが、反対運動もあり廃案となっている。

スパイ防止法によるスタンピード(暴走)を懸念する人たちと、身近に紛れ込んでいる危険人物の摘発を可能にする法整備の推進を望む人たちは、お互いの言い分を一歩も譲らず、落としどころを見いだせていない。いつまでも棚上げ状態が続くようでは、日本が「スパイ天国」と言われても致し方ない。

 

Pajuの検問所では兵士が車両ごとに厳しいチェックを行う

写真撮影=©KazunoriShirouzu

 

外国のスパイ行為を包括的・直接的に処罰する法律(スパイ防止法)がないのは民主主義先進主要国の中では日本だけである。

スパイ防止関連法案の国会提出はそのきっかけではあるが、大切なのは国会における全方位な討議と万全の検証であるのは言うまでもない。

 

(記・白水和憲)