今夏の台湾香港映画 2作品

台湾「白色テロ」時代の深い傷

チェン・ユーシュン(陳玉勳)監督作品の『霧のごとく(大濛)』は、1950年代、台湾を覆った政治弾圧、白色テロを背景に少女とその兄を主軸に、彼らを取り巻く人々の物語。

 

『霧のごとく』 ©2025 Mandarin Vision Co.,Ltd.

代官山シアターギルド館内ポスター

 

内戦で大陸を追われた国民党が台湾に逃れ、その台湾で戒厳令を敷き、挙句、異分子を徹底的に取り締まった。登場人物たちの人生は目まぐるしく変転する。

反政府分子として銃殺刑となった兄の遺体を引き取りに台湾南部の田舎(嘉義県)から台北の斎場へと旅立った少女が、その道中で悪人に騙され、危うく売り飛ばされそうになったりする。

ひょんなきっかけで少女を助けた元国民党兵士の輪タク車夫。広東省出身で、一見能天気な人物だが、彼自身つらい過去を持つ。故郷の広東省に戻れないまま、しぶとく台湾で生きている。

影のように出没する特務機関幹部の監視も実に不気味である。

50年後、おばあちゃんになった元少女と年老いた輪タク車夫、邂逅のラスト。時の流れと再びの別れをさらっと描くエンディングの演出はなかなかいい。

台湾最高峰の映画賞「金馬奨」で2025年最優秀作品賞や脚本賞など4部門で賞に輝いた。

<8月17日 東京・代官山シアターギルドで鑑賞>

香港の土着的な道教儀式「破地獄」

本来の寿命を全うできずに死んだ者が安全にあの世へ渡れるように、地獄の門を破り、魂の通り道を開く――。

アンセルム・チャン(陳茂賢)監督作品の『旅立ちのラストダンス(破地獄)』で描かれるのは、道教の宗教者である道士が剣をふるって瓦を割り、地獄の門を破り、燃える業火から死者の魂を救い出す。その葬祭儀式の舞を「破地獄」という。香港の土着的な儀式であり、現在も葬祭儀式の主流として残っている。香港の無形文化遺産にも登録されている。

 

新宿武蔵野館の展示ポスター

写真撮影=©KazunoriShirouzu

 

道士役は、マイケル・ホイ(許冠文)。70年代から90年代にかけてコメディ映画『Mr. BOO!ミスター・ブー』シリーズの製作・監督・主演で大活躍。今回はガラッとイメージを変え、道士という重厚な役を見事に演じた。破地獄の舞はさすがである。

もう一人の主演、ダヨ・ウォン(黄子華)はマイケル・ホイによって才能を見出された俳優で、現在、香港を代表するほどの売れっ子となっている。

「伝統儀式」「死生観」「家族」というテーマが重なり合い、若者から中高年と幅広い層に受け入れられた。

2025年香港映画歴代興行収入第1位、第43回香港電影金像奨で主演女優賞(ミシェル・ワイ<衛詩雅>)など5部門を受賞。

<5月25日 東京・新宿武蔵野館で鑑賞>

 

上記2作品、個人的には映画タイトル(邦題)にやや不満が残った。原題のまま「大濛」と「破地獄」でもよかったのではないか。

(記・白水和憲)