パキスタン元首相イムラン・カーン氏(Imran Khan、73歳)が拘禁されて3年を超えた。
私がイムラン・カーン氏に初めて会ったのは2012年10月のこと。場所は首都イスラマバードのパキスタン大統領官邸で開かれた昼食会でのこと。
この時の主催は「ミスター10%」と揶揄され、袖の下(賄賂)が大好きなことで有名だったザルダリ大統領(=当時)。イスラム国家初の女性首相となったベナジル・ブット氏(2007年12月27日暗殺)の夫でもある。
昼食会では中央の大型円形テーブルに主催者のザルダリ大統領を囲むように12人が座った。どういうわけか、私もこのテーブルに組み込まれた。
ザルダリ大統領の左隣3人目(私の席から斜め向かいの5人目、ほぼ正面)の人物にふと目が向いた。
少し長めの髪をうしろで縛り、パキスタンの公式伝統服をまとっている。さも居心地悪そうにその席に座り、上向きな視線で沈黙していた。
最初は誰だか分らなかった。周囲とはやや雰囲気の異なるその人物を見ながら、「見覚えのある顔だな」と思い、私の左隣りの席に座るアリ・S・ハビブ氏(インダスモーター会長、当時)に尋ねた。
「イムラン・カーンですよ」と小声で教えてくれた。
かつてのクリケットのスーパースターである。この時は少数政党でしかなかったパキスタン正義運動(Pakistan Tehreek-e-Insaf=PTI)の党首だった。まさか後に首相(2018年8月就任)になるとは思ってもいなかった。(註:詳細は2019年5月1日付け本コラムで投稿済み)

2018年8月18日 首相就任したイムラン・カーン氏(=当時)
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首相就任後は歴代政権が積み増してきた膨大な借金の返済に追われた。なかでも最大支援国中国への返済繰り延べと新規の援助要請は頻繁で、習近平中国国家主席へのご機嫌取りには涙ぐましいものがあった。借金大国パキスタンの首相職は誰が務めても実に難儀な役割であったのは間違いない。
そのカーン氏、2022年4月議会による不信任決議を受けて失職した。同年8月反テロ法違反の疑いで起訴、ほかの容疑も併せて10月には議員資格を剥奪された。
2023年8月、公職守秘法違反容疑の捜査で身柄を拘束。この逮捕以来、カーン氏は主に北部ラワルピンディのアディアラ刑務所の独房で勾留されている。

写真=©KazunoriShirouzu
この間、複数の禁錮刑で14年の刑期に加え、2024年1月には国家元首として受け取った公式贈答品の不正売却でさらに17年の禁錮刑を言い渡されている。
こうしたカーン氏追放劇の背景には、カーン氏と国軍トップ(アシム・ムニール元帥)との間に確執があったとされている。どの国でも政治トップと国軍との間の関係が極めて重要であることは共通している。
この3年間、カーン氏は公正な裁判を受けておらず、医療も面会権も制限され、2025年12月以降は弁護士との定期面会も認められていない。

クリケットはパキスタンの国民的スポーツであり、その英雄がイムラン・カーン氏である
写真=©KazunoriShirouzu
14年前、私の目の前に座っていたカーン氏の姿は寡黙で、近寄りがたい雰囲気であったのが忘れられない。
クリケットの国際的スター、政党立ち上げ、首相、刑務所に収監とカーン氏の人生は目まぐるしく変転した。
いま、パキスタンではカーン氏釈放を訴えて大規模な抗議活動が繰り広げられている。
(記・白水和憲)