中国に侵食されたカンボジア 日本の援助案件は霞む一方か

経済発展に向けて全土でインフラ開発が進むカンボジアだが、重要プロジェクトを牽引するのは中国。この四半世紀、カンボジアは政治も経済もまるで中国の属国と化したかのような緊密ぶりだ。

2022年11月、カンボジアで初めての高速道路が開通した。首都プノンペンと主要港シアヌークビル間の約187キロ、片側2車線。建設を担ったのは中国路橋工程(CRBC)。BOT(建設・運営・譲渡)方式での受注。

2023年6月、プノンペン・ベトナム国境経済特区バベッド間で第2の高速道路の建設が着工。約135キロ、片側2車線、2027年開業予定。第1高速道路と同じくCRBCがBOT方式で受注。

さらに、プノンペン・観光地シェムリアップ・タイ国境経済特区ポイペト間をつなぐ第3の高速道路建設計画も。この6月には中国CRBCとの間で枠組み協定が締結された。第1と第2と同じくCRBCとのBOT契約になる公算が濃い。

プノンペン市内 バイクが多いが、徐々に自動車も増加中

写真=©KazunoriShirouzu

カンボジアにとっては資金、技術、労働力、事業運営を中国側に委ねることでプロジェクト自体が“質ぐさ”に取られた。それでもなお、カンボジアは中国側から囁かれた甘言プロジェクトの魅力にひれ伏した格好だ。

カンボジアに対する支援は2016年までは日本がトップだったが、2017年中国に逆転されて以降は中国の独走状態。日本の援助案件はカンボジアにとっては実益を伴うものが少なくないが、日本特有の奥ゆかしさと宣伝下手から、敢えて言わなければ「日本からの援助」と分かりにくい。その点、中国は違う。援助案件を恩着せがましく誇張気味に大宣伝する。

従って、プノンペンでもシアヌークビルでもそこかしこに中国人・中国企業の存在が目立つものの、日本人・日本企業の影は薄い。

シアヌークビルの海岸 遥か遠く沖合の島との間に橋がかけられている

写真=©KazunoriShirouzu

2019年5月、来日したフン・セン首相は、「現在のカンボジアの成長は、友である日本の寄与なしには成し得ませんでした」(5月29日、ホテル・ニューオータニでの講演)と殊勝なことを言ってのけたが、今後の日本の対カンボジア援助については、「日本が金を出さなければ中国が出してくれるさ」との心底が透けて見えそうな言い方だった。

フン・センは1989年5月から4年3か月(初代首相)、1998年11月からこの7月まで24年9か月(第3代首相)、首相職を務めている。両期間を合わせると、実に29年間もの長きにわたって最高指導者の地位にある。現在72歳。

フン・セン首相(2019年5月29日、ホテル・ニューオータニ)

写真=©KazunoriShirouzu

2021年12月には長男フン・マネット陸軍司令官(中将、45歳)を将来の後継首相に指名している。ただし、首相職を息子に譲ったとしても、政権党である人民党の党首の座は手放さない。つまり、院政を敷き、国政人事も掌握する。

形式的な親子の権力移譲であっても、スムーズに進むかどうかは後援者(スポンサー)たる中国からの支持を取り付けることが第一義的だが、すべからくこの世は、一寸先は闇。

奢れる者 久しからず、、、。

フン・センの高笑いはいつまで続く。

 

(記・白水和憲)