近年、目覚ましい経済発展を遂げてきたインドだが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、3月25日から5月3日まで全土封鎖に至っている。13億6642万人(国連、2019年)を擁する人口大国インドには膨大な貧困層が存在する。とくに最大都市ムンバイにあるアジア最大のスラム地区ダラヴィでの感染率は高く、モディ首相にも焦りの色は濃い。
刻々と悪化する感染状況の対応策に効果が見られないとの非難を浴びつつも、モディ首相は強いリーダーシップを模索し続ける。
そのひとつが、国民IDであるAadhaar(ヒンディー語で“基礎”の意)を活用した国民への直接現金給付である。Aadhaarは、日本で言えばマイナンバー制度に相当する。「デジタル・インド」を標榜するモディ首相が掲げる代表的政策のひとつでもある。
Aadhaarに紐づいた銀行口座に現金を直接給付できるデジタル公共インフラを使い、8,700万戸の零細農家を対象に1回2,000ルピー(約3,000円)を3回振込むという「所得補償」である。1回目の振込が4月中に始まる。額はそれほど大きなものではないが、これで救われる人たちも多い。給付ルート・時間の短縮、仲介者の汚職(途中でお金が消える)防止効果が見込めるAadhaarの活用で、一刻も早く現金を手にしたい人たちにとっては有り難い措置。今後の給付対象の拡大や給付額の増額への道筋もついた。
「やる」「やらない」詐欺や、「遅い」「せこい」政策で国民からリーダー失格の烙印を押されたわが日本国の首相や、デスクワークだけの役場(霞が関)の引きこもり職員に比べれば、インドでは目に見える形で人々の救済が行われている。未だに多くの課題が山積するインドだが、やれるところは一気に実践するのもインドの特徴である。
(記・白水和憲)