中国映画『無名』 ― 汪兆銘政権、国民党、共産党、日本軍 — 四すくみの暗闘

「シネマート新宿」1階入り口の『無名』案内ポスター(5月3日)

写真撮影=©KazunoriShirouzu

 

[Story]

中華民国・汪兆銘政権の政治保衛部フー(トニー・レオン)は、中国共産党秘密工作員であることに疲れたジャン(ホアン・レイ)が中国国民党に転向する現場に立ち会い、ジャンから共産党幹部の情報を聞き出す。

転向者となったジャンは5年間ともに暮らした女性チェン(ジョウ・シュン)に「これからの余生を一緒に生きたい」と話す。するとチェンは「離れて暮らす夫がいる」と告白する。その夫とはフーだった。

1941年.上海駐在の日本軍諜報のトップ渡部(森博之)は、フーやタン部長(ドン・チョンポン/ダー・ポン)と定期的に戦局についての会合を持っていた。

フーは、捕えた国民党の女スパイ(ジャン・シューイン)を処刑前に密かに助け、その代償に上海在住日本人要人リストを手に入れる。フーとともに上海で諜報活動を続けるのは部下のイエ(ワン・イーボー)とワン(エリック・ワン)。

イエには婚約者ファン(チャン・ジンイー)がいた。ファンとの結婚を考えるイエだったが、ファンは自ら共産主義者だと言い、別れを告げる。しかし、夜に1人で歩いていたファンにワンが近づき、好きだと迫る。返事をしないファンにワンは「殺す」と脅迫。翌日、ファンは殺されていた。着衣の乱れと暴行の跡が残っていた。

イエは婚約者ファンを殺したのはワンだと疑う。「なぜ殺した」と問い詰めるイエにワンは「あの女は共産主義者(=共産党のスパイ)だからだ」と冷たく突き放す。同僚に婚約者を殺され、怒りに燃えるイエは、フーの差し金と思い込みフーのアジトを襲撃。果てしない壮絶な闘いとなった。

1945年8月15日。戦争は終わった。刑務所から出てきたフーの前を、逮捕された渡部とイエを乗せたトラックが横切った。

(エンドロールの後、画面が巻き戻される。イエが予想外の素性を明かし、ワンを撃ち殺す。フーとイエの意外な関係も明らかになるという予想外のエンディングで締め括られた)

 

「シネマート新宿」6Fホール内の『無名』パネル(5月3日)

写真撮影=©KazunoriShirouzu

 

◎ 主演:トニー・レオン(梁朝偉)、ワン・イーボー(王一博)

◎ 監督:チェン・アル(程耳)

◎ 2023年中国『無名』 英語題名:Hidden Blade 131分 中国語・広東語・上海語・日本語

◎ 2023©Bona Film Group Company Limited

◎ 日本配給:アンプラグド

◎ 5月3日に鑑賞

 

[雑感]

キャリア抜群の世界的俳優トニー・レオンとダブル主演を果たしたのが中国の若手俳優ワン・イーボー。ワン・イーボーは日本では若い女性にたいそう人気だ。物語は当時の大陸中国の複雑な政治・軍事状況を背景に進み、陰惨な殺傷シーンも多い。そのため、日本の若い女性がとても興味を持つような映画ではないと思っていた。しかし、会場(シネマート新宿)には若い女性が大勢詰めかけ、何ともアンバランスな空間だった。とは言え、ワン・イーボーの好演は印象に残った。

 

(記・白水和憲)