映画『709 の向こう側』とエミリーラウ

 2015年7月9日、中国全土で200人以上の人権派弁護士や活動家がいっせいに連行・取調べのあと、20人余が国家転覆の疑いなどで逮捕・拘束される事件が起こった。その後、釈放された弁護士がいる一方で、いまも釈放されずに行方不明の弁護士がいる。

 同事件を扱ったドキュメンタリー映画『709 The Other Shore』(709の向こう側)の監督・盧敬華氏、プロデューサー・江瓊珠氏、そして香港の元民主党議員(主席)で「中国人権派弁護士支援グループ」理事のエミリーラウ(劉慧卿)氏が来日。同事件への理解があまり浸透していない日本で上映会とディスカッションを行った(12月11日)。

「何十年も中国への渡航が禁止されている」とエミリーラウ氏
©KazunoriShirouzu

 盧敬華監督が撮った前作『709人們』(709の人たち)は、拘束された弁護士のうち14名とその家族・友人及び支援者に迫ったドキュメンタリー作品だったが、今作は迫害を受けて米国に逃れた弁護士やその家族などのインタビューで構成。弁護人も選定できず、拷問、自白強要など人権侵害がいまでも横行する中国の劣悪な拘束実態を当事者やその家族が生々しく証言する。

 中国共産党批判本を数多く並べていた香港の書店関係者が2015年秋から冬にかけて次々と失踪した「銅鑼湾書店事件」は不可解な出来事として日本にも伝わってきたが、結局は、何か月も中国公安当局に監禁されていた。中国にとって不愉快(不都合)なことは力づくでねじ伏せる、ということか。同種の事件は今後もある日突然起こると考えた方がいい。あの中国一の売れっ子女優ファンビンビン(范冰冰)が忽然と4か月も人前から姿を消した時は、何かしらうすら寒いものを感じた人は多かったのではないか(結局は脱税容疑の拘束であり、邦貨換算147億円の巨額罰金で収束したが)。

 1997年7月の中国返還から21年半、依然ときらびやかに賑わう香港だが、その裏側では中国の厳しい監視がある。じわじわと中国の浸食が進み、言論監視も強まる香港だが、「中国大陸の現状は厳しいけれど、それでも香港にはまだ自由がある」(エミリーラウ氏)

エミリーラウ氏
©KazunoriShirouzu

(白水和憲)

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