“東南アジアの隠花植物”から“中国の宿場町”になったラオス

 ラオスは18世紀にタイやカンボジア、19世紀半ばからフランス、そして20世紀半ばには日本、その後もフランス、さらにはベトナムやソ連など常に強国や周辺国からの干渉を受け、ひっそりと生きざるを得なかったことから、小説家松本清張は首都ビエンチャンを「東南アジアの隠花植物」と称したほど。注意してみれば、いまも何となくそんな雰囲気が感じられる。

 第2次大戦中に参謀として日本軍を散々ひっかき回し、敗戦と聞くや地下に潜行して戦犯を逃れ、戦後は参議院議員になった辻政信が東南アジア視察の途上で忽然と消えたのがラオス北東部に広がるジャール平原(Xieng Khouang県)。その不可思議性ゆえ、小説のネタにもなりやすい。

 ラオスの国土面積は23.68平方キロと日本の本州(22.8万平方キロ)と同じくらいだが、人口は約720万人と埼玉県と同じ規模。IMF統計(2018年)によれば、GDPは184.34億ドル(世界118位)、一人当たりGDPは2720ドル(同134位)と後発開発途上国。

 このラオスに目をつけたのは中国。ラオスに隣接するタイ・ミャンマー・カンボジアなど複数ルートでインドシナ半島を南下し、シャム湾やインド洋に抜けようとしている。その計画手段のひとつが、ラオス国家予算の2倍近い総額約60億ドルを投じるラオス・中国高速鉄道計画。中国雲南省と接するLuong Nam Tha県Boten~首都ビエンチャン間約460キロ の鉄道。中国の玉磨線とつながる予定。建設費の大半は中国からの借款。

 このプロジェクトを特需とするラオスの建設業は2017年が18.0%、2018年は21.9%高い成長率を示しているものの、これは表面的な数字に過ぎず、建設や資材提供、労働者は主に中国側が受け持つ。中国は融資の返済担保としてボーキサイトやカリウムなどラオス国内の鉱物資源をすでに押さえている。いずれ中国のものとなろう。中国の得意技「債務の罠」であり、「ラオスは中国の手に落ちた」「中国街道の宿場町になった」と揶揄される所以である。

Bouasone Bouphavanh元首相
「日本・ラオス経済関係の深化と東アジアの経済統合」セミナー会場(JETRO東京本部)

 2019年8月26日、「日本・ラオス経済関係の深化と東アジアの経済統合」セミナーの講演者として来日したBouasone Bouphavanh氏(元首相、2006~2010年)は、「ラオスにとって日本は貿易のメインパートナーではない」と述べ、2017年ラオス貿易統計における対日輸入は2.71%、対日輸出は1.95%という数字を挙げる。ラオスは政治的にも経済的にも中国との運命共同体感が醸成されており(隣国カンボジアも同じ状況)、日本の出遅れ感は顕著。

 Bouasone Bouphavanh元首相の顔の表情や発言主旨から推し量れば、「日本がこれ以上もたもたすれば、重要パートナーの中国はおろか、日本より先行するタイやベトナムすら追い越せない」と告げているようだった。

(by 白水和憲)