パキスタンのイムラン・カーン首相が「イスラエルを承認するようにとアメリアから大きな圧力を受けている」とミドルイーストアイ※1に語ったと全国紙DAWNが11月17日に伝えた。
(※1 Middle East Eye、ムスリム同胞団もしくはカタール寄りとも言われているオンラインニュース組織)
アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどの湾岸国家がイスラエルと関係正常化に舵を切ったこともあり、アメリカはパキスタンやサウジアラビアにも同様の決断を迫っている。
カーン首相は「パレスチナの自由が実現しない限り、イスラエルを国歌として認めることはできない」との姿勢を崩していない。これは、建国の父ジンナー(カーイド・アージム・ムハマド・アリ・ジンナー)が1948年に「パキスタン人の自由が保障されない限り、パキスタンはイスラエルを認めない」と述べたことと相通じる。
カーン首相はまた、イスラエルを承認すればパレスチナを落胆させ、長年死闘が繰り返されてきたインドとのカシミール紛争でパキスタンはイスラム国家からの支援と信用を失うことにもつながり、それは絶対にできないとする。
カシミール問題では中国が秘かにパキスタンに理解と支持を示しているが、それは中国の野心のための方便とみたほうがいい。パキスタンへの大々的な経済支援と引き換えに中国は内陸(カシュガル)からアラビア海に出るルートを確立し、しかも融資の担保物件としてパキスタンの重要インフラ資産(港、道路、空港など)を手に入れることができる。さすがにパキスタンもそこは覚悟しているものの、本当は(中国からの借金を)ウヤムヤにしたいところだろうが、中国はそんなに甘くはない。
一方、アメリカはアフガニスタン攻略の最前線としてパキスタンを散々利用してきたが、トランプ大統領がぶち上げたアフガニスタンからの米軍の大規模撤退が現実化すれば、パキスタンは名実ともに対アフガニスタン戦の矢面に立つことになる。
アメリカがパキスタンにイスラエル承認を迫るなら、貧乏くじを引く恰好のパキスタンが(支援を口約束する)中国に寄っていくのも仕方のないこと。
今冬、習近平中国国家主席のパキスタン訪問が取り沙汰されているのも、大統領選結果の混乱が尾を引くアメリカを尻目に、中国がドサクサ紛れに西アジア・中東に手を突っ込んできたということか。
アメリカと中国が対立する中で、カーン首相は2018年8月の首相就任以来、綱渡り外交を切れ目なく続けてきたが、パキスタンが最終的に協力を仰ぎたいのは、実は同胞でもあるイスラム諸国であるのは間違いない。
(白水和憲)