ミャンマーで軍事クーデター、国軍がスーチー氏を拘束

 2月1日早朝、ミャンマーで軍事クーデターが勃発。国軍は同国トップで国家顧問兼外相のアウンサン・スーチー氏を首都ネピドーで拘束。国家緊急非常事態宣言を発し、ミン・アウン・フライン国軍総司令官が全権を掌握した。ウィン・ミン大統領ほか、与党NLD(国民民主連盟)所属の閣僚や議員も数多く拘束された。

 国軍クーデターの背景には、2020年11月の総選挙でNLDが圧勝し、国軍に都合のよい現行憲法がNLD政権によって改正されることへの強い危機感があったとの見方が多い。

アウンサン・スーチー氏(2018年10月8日、東京・明治記念館)
写真= 2018©KazunoriShirouzu

 先月(1月)、国軍はクーデターの可能性を口にした直後に、いったん矛を収めたかに見えたものの、2月1日にはクーデターを強行。その一方で、スーチー氏は国軍の不穏な動きを予測していたともされる。

 スーチー氏は長い間、国民的人気が高く、ミャンマー民主化の「象徴」であり続けてきたが、政権掌握してからは度々「国家運営を任せるには不安がある政治家」と指摘されてきた。

 経済政策に疎く、国軍との緊張関係も最小化できず、危機対応への備えも薄かった。文民政権誕生から5年、そのウィークポイントを国軍に突かれた格好で、再びミャンマーに軍事政権が登場する。 

 「日系企業の投資活動が積極的になった矢先の出来事だけに、この軍事クーデターのマイナスインパクトは大きい。投資ブームに冷や水をかけた」(在ヤンゴン日系企業駐在員X氏、Zoomでの談話)と眉をひそめる企業関係者は多いものの、その一方で、近年、スーチー氏は国内の難民(ロヒンギャ)問題には手も足も出なかった。そのことで、彼女の人権意識の低さが国内外に知れ渡り、各方面から「ノーベル平和賞を返上しろ」とまでつるし上げられ、民主政治家としての資質を問われた。

 今回、国軍がスーチー氏を力づくで権力の座から引きずり降ろし、自宅軟禁状態に追い込んだことで、ミャンマー国民はスーチー氏を再び「民主化の象徴」、いや、「女神」にすら祭り上げることだろう。スーチー政治の功罪を検証しないまま、ミャンマーは不安定な時代に引き戻された。

 国家緊急非常事態宣言の期間は1年。国軍は総選挙のやり直しを予定している。先行きはまだ読めない。 

(白水和憲)