パキスタン首相に就任した元首相実弟、「いつか来た道」へ

 4月11日、パキスタンでは最大野党PML-N(パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派)党首のミアン・モハンマド・シャバズ・シャリフ氏を第23代首相に選出した。S・シャリフ氏は過去3回の首相経験者ナワズ・シャリフ氏の実弟、70歳。3期のパンジャブ州首相を経て、2018年からPML-N党首を務める。

 今回はすったもんだの末に起こった珍しい政権交代劇だった。

 2018年8月に政権の座に就いたクリケット界の英雄でパキスタン正義党(PTI)党首イムラン・カーン氏率いる連立政権は、2022年3月、野党から首相不信任案を突き付けられた。その直後、連立政党の一角が離反、政権維持が難しくなったことから、起死回生策として下院解散、総選挙に打って出た。しかし、そこに最高裁がストップをかけた。解散の無効、首相不信任案を議会で決着するようにとの判決がでた。

 その結果、首相不信任案が可決され、「現職首相の失職」という結果となった。パキスタン憲政史上初の不信任決議による不名誉な首相失職でもある。

政権交代劇の引き金となったパキスタン最高裁判所(イスラマバード)
写真=©KazunoriShirouzu

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 S・シャリフ新首相は、就任後の演説では、総額620億ドルにおよぶ中パ経済回廊(CPEC)事業を中断することなく加速すると言及。伝統的ともいえる中国からの借金漬け政治・外交・経済政策からの回避に必死だったカーン前首相の路線を否定した。

 CPECプロジェクトをパキスタン側に持ちかけ、強力に推進してきた中国習近平指導部は要衝バロチスタン州における中国人を標的とした過激派テロに嫌気がさし、カーン前首相による強い借金減額要請も重なり、CPECの放棄に傾いていた矢先でもあった。S・シャリフ新首相の登場により今後中国の出方が気になる。

 今回は政権を担ったこともある有力政党PPP(パキスタン人民党)が協力する連立政権である。本来、仲の悪い両党がこのまま順調に共同運営できると予測する専門家は少ない。仲違いの可能性が十分にある。そうなると、またもや政治混乱と総選挙という無駄な時間とカネが費やされる。

 これまでパキスタンの歴代政権は贈収賄、違法資金洗浄、公的資金流用など欲徳にまみれた歴史でもあるが、S・シャリフ首相の出現で、パキスタンはまた「いつか来た道」に戻りそうだ。3年8か月でしかなかったカーン政権は束の間の静かさだった。

 それにしても、アジアは親族のネームバリューに依存した「昔の名前で出ています」式の指導者選びが多い。スリランカのG・ラジャパクサ大統領(M・ラジャパク元大統領の実弟)、バングラデシュのシェイク・ハシナ首相(ムジブル・ラーマン初代大統領の長女)、直近ではこの5月のフィリピンのF・R・マルコス・ジュニア大統領(F・E・マルコス元大統領の長男)など、例を挙げればきりがない。

 そうか、よその国のことは言えない。日本の政治家もそうだった。

(記・白水和憲)