中国の資源収奪は、身近なところでは東シナ海ガス田の強硬開発や日本近海漁業資源の乱獲にはじまり、北極圏の石油・天然ガスや中東の石油から、遠くアフリカの鉱物資源に至るまで、とどまるところを知らない。そしていま、シベリアの水資源にまで手を伸ばしたことで、ロシアの怒りを買っている。
2500万年以上前から存在すると言われ、世界最古で最深の淡水湖でもあるバイカル湖の透明な水は世界的にも有名で、大勢の観光客が世界各国から訪れる。私もシベリア南部のイルクーツク(Иркутск)からバスで2時間かけて見にいった経験がある。
このバイカル湖の水を中国がミネラルウォーターに商品化して持ち去ろうとしている。バイカル湖畔で計画されている中国輸出用ミネラルウォーターのボトル詰め工場建設に対して、3月下旬、イルクーツク地裁は建設許可を違法とする判断をしたと国営タス通信が伝えた。
この工場は、中国企業「貝加爾湖(バイカル湖)」がロシア企業「AkvaSib」に資金援助して建設計画を進めていたものだが、地裁の判決に対して合法を主張し、控訴する方針だという。
一方、ソ連時代に湖畔の製紙工場が工業排水をバイカル湖に流し込んで水汚染が深刻化した過去もあり、今回も工場操業による汚染を心配する地元住民やその支援グループが激しく反対運動を展開した。Sergei Levchenkoイルクーツク州知事も住民に同調する動きを見せている。
バイカル湖は冬には湖面がすべて氷で覆われ、その凍った湖上をロシア軍の戦車などが演習で行き交う光景を目にしたことがある。
冬の演習拠点でもあるバイカル湖に、なぜ中国系の工場が建つのか。軍事に関わる場所の一角を売り渡しても、ロシアは中国からの投資資金が欲しかったのか。
当初は工場建設に乗り気だったイルクーツク州知事と中国がどんな交渉をしたのかは不明だが、日に日に激しさを増す反対運動にはさすがに抗しきれず、考えを修正したものと思われる。実はこの知事、プーチン大統領とは仲がいいわけではない。この問題についてもイルクーツク州とクレムリン(モスクワの中央政府)の間には溝があるとも指摘されている。
知事の性格からすれば右顧左眄も予想され、クレムリンとの調整が難航するだけでなく、事業当事者の中国も簡単に引き下がるとは考えられず、事態は三すくみ状態で、当分収束しそうにもない。
(白水和憲)