資金援助の条件として利益を一方的に持ち去ったり、返済遅延が起こるとプロジェクト物件を強奪したりする行為が世界から非難されているのが中国の一帯一路(BRI=Belt and Road Initiative)構想。マレーシアでもプロジェクト契約の一部見直しが始まっている。
そのひとつがマレーシア東海岸高速鉄道である。タイ国境の東海岸ワクバルから東海岸最大都市クアンタンに南下し、そこから半島を横切る形でクアラルンプル、さらには西岸の同国最大貿易港クラン港までつながる高速鉄道建設プロジェクトで、2017年8月に工事着手。建設費は655億マレーシアドル(5月14日時点の26.34円換算で約1兆7252億円)。融資契約の詳細は未公表。どうやらナジブ前首相は中国から高利で事業費を借りていたようだ。ナジブ前首相失脚のあと、マハティール元首相が首相に復帰、工事の中断を発表。しかし、中止に伴って発生する巨額の違約金に加え、鉄道完成による経済効果を考えると、すべて白紙に戻すこともためらわれた。
そこで、マハティール首相はこの4月、交渉役としてダイム・ザイヌディンを中国に派遣。建設費を3割以上削減の440億マレーシアドル(同約1兆1590億円)に、借入金利の引き下げについても中国側と合意した模様。完成は2026年の予定。
中国との交渉にあたったダイムは1938年4月生まれ、現在81歳。第1次マハティール政権時代の蔵相(1984~1991年、1999~2001年)。20代は法律事務所に勤め、30歳で事業家になり、44歳で政界に入る直前はIndosuez 銀行(のちのMalaysian-French Bank)のオーナーであった。商談や契約ごとには強い。
巷間、ダイムはマハティール首相の盟友とも言われているが、首相はダイムの商売勘は評価しても、利権を求めたがる性格を嫌っている。
今回、中国との交渉役にダイムを起用したのは、マハティール首相の老獪なところ。次期首相に期待されるアンワル・イブラヒムでは中国との交渉は難しいとの判断があったのだろう。実際、ダイムの交渉は成功した。しかし、ダイムが男気を出して引き受けたわけではないことも皆知っている。ダイムは見返りに何を得たのだろうか。
(白水和憲)